教員の時間外手当について考える

毎日新聞によれば、文部科学省は負担が大きい教員に手当の増額を検討しているという。

授業が成立しにくい教育困難校の校長や部活動顧問ら負担が大きい教員に対し、文部科学省は手当増額の検討を始めた。公立小中学校を対象に、部活動手当は倍増させ、現在最高で給料の17・5%ついている管理職手当を20%までアップ。一方、主任教諭や休職教員の手当は減額する方針だ。
(中略)
土曜、日曜など休日を部活動の指導に充てて、尽力する教員には、現在1日2400円(4時間)の部活動手当を同4800円に倍増させる。管理職手当の増額対象は、教育困難校のほか、地域のリーダー的役割を果たす学校長で、副校長や教頭も同様に加算する。
(中略)
早朝出勤など不規則な勤務に対応するため、管理職を除く教員には時間外勤務手当の代わりに「教職調整額」として月給の4%が一律支給されているが、文科省は休職中の教員など時間外勤務への配慮の必要がない対象者について最大1%まで削減できないか検討している。教職調整額は各地で削減の動きがあり、東京都は研修しても指導力が改善しない教員を1%まで減額している。

文科省:教員手当増額を検討 「主任」「休職」減額で充当

ここでいくつか確認しておきたいことがある。

民間なら休日出勤で増額扱い

よく、公務員は民間を見習えと言われるが、教員の労働条件や給与支給は民間にならっていると言えるのか。

部活で土日に出勤した場合の手当が倍になると言うのは、それはそれで少しはマシになったのだろう。しかし、民間なら、法定休日である日曜や祝日に出勤すれば、日当の35%増しの休日手当を払わなければならない。すなわち、一日分の給与の135%を支給しなければならない。また、振替休日のない土曜出勤の場合も、125%の給与を支給しなければならない。日曜に4800円貰ったと考えれば、教員の一日あたりの賃金が3500円程度で考えられているということだ。これは、コンビニでのアルバイト4時間分程度である。教員も安く見られたものだ。

教職調整手当とは何か

教職調整手当も、記事では

「早朝出勤など不規則な勤務に対応するため、管理職を除く教員には時間外勤務手当の代わりに『教職調整額』として月給の4%が一律支給されている」

とあるが、この説明は、ちょっと違うのではないかと思う。正しく知るために、教職調整手当については、文部科学省の次のホームページに経緯が解説されているので参照されたい。

教職調整額の経緯等について

ものすごく端折って言えば、

(1)基本的に教員に時間外勤務を命じてはならない。
(2)しかし、行事や会議や災害などで仕方なく時間外勤務をしなければならないこともありうる。
(3)実際に1966年に時間外勤務の時間を調べてみたら平均しておよそ20分弱の時間外勤務をしている。
(4)それを給与に換算したらだいたい4%程度になる。
(5)これを教職調整手当として給与に加算しよう。

ということである。

現在始業前の早朝勤務だけでも20分弱をゆうに越えているだろう。さらに、21時、22時まで残業している教員なんてザラである。小・中学校教員は給食指導などがあり、昼休みがないので、勤務時間は16:30までだと思うので、毎日5時間程度残業している人がたくさんいるということだ。もちろん、早く帰っても、授業の準備などを自宅に持ち帰って行っている人も多数いる。

だから、休職中の教員に支給されるというのは確かにおかしな話だが、手当を見直すなら、残業実態に合わせるか、実際に残業時間をきちんと管理して残業手当を満額支給すべきものなのだ。

ましてや、指導力不足だからという理由で、時間外手当のために支給されている教職調整手当を減額してよいはずがない。サボっているわけではなくて仕事が遅い人には残業代を払わなくて良いということになってしまうではないか。そういうわけで東京都はあきらかに賃金に関する考え方を間違えている。

部活は教師の仕事か

しかし、そもそも部活は教師の仕事なのか。教師の仕事は基本的には学習指導と生活指導ではないのか。部活指導で夜遅くなったり、土日出勤したりして、授業の準備は十分できているのだろうか。学級の子どもたちの様子をつかむための様々な手は打っているのか。

部活は社会体育に移行したり、あるいは、外部コーチに任せたりすればよい、というのが私の基本的考え方である。

ときおり、部活が生き甲斐で、授業は適当な教師を見かけることがある。そんな教師は私の提案に反対するかも知れない。しかし、教師というのは「授業で子どもたちを惹きつけてなんぼ」の世界であるべきだ。あるいは、すぐれた学級づくりで子どもの信頼を得てなんぼの世界であるべきだ。

部活で子どもたちと関係を深めたり、部活でがんばっているところを見ているから生活指導ができるという教師もいるかもしれない。しかし、部活ではなく、班ノートや個人ノート(日誌)を通して子どもたちの理解を深めたり、面談に時間を使ったりすることの方が、よほど子どもたちとの関係を深められるし、子どもたちを理解できるのではないか。

部活での活躍を知りたければ、外部コーチや保護者から情報を得ればよいのだし、本人との関係が深まれば、個人ノートなどに部活のことを書いてくるに違いないではないか。

いずれにしても、今回の文部科学省の提案は、労働の原則論から言っても、学校の教育力向上という点から言っても、およそ褒められたものではないだろう。