子どもの年間被曝許容量の欺瞞

子どもの成長と健康に責任を持つ文部科学省が、子どもの被曝量を年間20ミリsvにするという暴挙に出た。すでにこの問題が俎上に載せられた2週間前に、このブログでも「子どもの年間被曝許容量を大安売り」として批判しておいた。


今日は、この20ミリsvという数字がいったいどういう数字なのか、ということを確認して、その欺瞞を暴いておきたい。


ドイツのシュピーゲルの記事"Japan legt hohe Strahlengrenzwerte fuer Kinder fest"は、文部科学省が学校や幼稚園の子どもたちの被曝許容量を、1時間あたり3.8マイクロsvに設定―これはドイツの原発労働者の被曝許容量の上限と同じ年間20ミリsvである―にするという激烈な方法をとった、と驚きを伝えている。

ドイツの原発労働者の年間の被曝許容量の上限と同じというのは驚きだが、下記の基準を見ればもっと驚くだろう。

  • 年間5ミリsvで放射線管理区域になる
  • 放射線管理区域では18歳未満は働いてはならない
  • 原発労働者が白血病になったとき年間20ミリsvの被曝があれば労災認定される


しかし問題は、文部科学省が年間20ミリsvになるとして算出している1時間あたり3.8マイクロsvの被曝はごまかしの上につくられた机上の空論であり、この数字に従うとほぼ20ミリsvを超える危険性があるということだ。

第一に、原発労働者は完全防備で作業するので内部被曝の心配は少ない。基本的に空中由来の放射線量での被曝を考慮しての数字である。しかも、計測器を付けて作業するので被曝量は実測値である。

それに対して、福島等高汚染地区の子どもたちの場合はどうだろうか。まず、そこで生活している限り、放射性物質が浮遊しているので呼吸することで吸い込む危険性がある。またそこに住んでいれば、おそらく食べ物、飲み物にも放射性物質が含まれる危険性が高い。すでに、母乳から放射性ヨウ素131が検出されたという市民団体の記者会見も行われている。内部被曝をすることはほぼ避けられないと見て良いだろう。外部被曝だけで20ミリsvになる場合には、実際にはこれに内部被曝分を加算しなければならないので、確実に20ミリsvを超えるわけだ。

第二に、学校での屋外活動以外、屋内で過ごしていることになっている。そこには、登下校のことも、帰宅後の外出も計算に入っていない。学校での屋外活動以外、一歩も外出しないことを想定している。現実にはありえない想定であるから、ここでも20ミリsvを超える危険性があることになる。

第三に、各地の空中放射線量は一般に地上20mで計測されている。フクシマの計測もそうだとすれば、この数値がアテにならない。地上には半減期が20年、30年の放射性物質が堆積している。だから地面から近いほど強い放射線が出ているのが普通だ。子どもほど地面に近いところで生活しているわけだから、公表されている数値以上の放射線を浴びることになるのは確実だ。第一の問題ともかかわるが、小さいほど放射性物質を含んだ土埃などを吸い込む可能性は高まる。

20ミリsvという数字がいかに無責任に決められているかを知りたい方には、下記のサイトの動画を視聴されることをお勧めする。子どもの命にかかわる問題なのに、いかに適当に決められているのかが一目瞭然だ。

「子どもの安全基準、根拠不透明〜市民の追及で明らかに(前編)」
「子どもの安全基準、根拠不透明〜市民の追及で明らかに(後編)」

それにしても、フクシマの母親たちの苦悩には胸が痛む。「福島県伊達市のお母さんのお返事」を読んで欲しい。涙なくして読めないだろう。

有り難いのですが、お話出来る心境ではないので…。母乳からヨウ素がでたとニュースで報道されていても泣きながら授乳をしています。
ミルクに変えた方がいいのかもしれません。
でも親のエゴかもしれませんが母乳を止められません。
水道水も使っていたし、内部被曝していれば我が子を危険に曝しているかもしれないのに…

母乳を飲むのになれてくれたのに、母親だと認識してくれて嬉しかったのに…。精神的に辛いし、疲れました。

本当にごめんなさい。


MSN産経ニュースで「住民の健康を数十年調査へ 広島・長崎モデルに放射線研究機関」という記事があった。福島の子どもたちの被曝許容量をいきなり20倍も緩和しておいて、数十年にわたって健康調査するとは人体実験と言われても仕方あるまい。
本来、一人ひとりとその家族の命と人生の問題なのだが、お金の問題に限ってみても、調査結果として広範に健康被害が出た場合には莫大な補償費がかかることになる。政府は問題と負債を先延ばしにするのではなく、すぐにでも高汚染地区の住民の避難先と働き口の確保を行ってほしい。土壌の入れ替え、洗浄で問題をある程度回避できるのかもしれないが、大量の放射性物質が放出し続けられているという現状では、やはり避難しかないのではないだろうか。