いったい日本をどこに連れて行きたいんだ?

自民党を中心に、自由社育鵬社歴史修正主義の歴史教科書、基本的人権国民主権を蔑にする公民教科書の採択運動が展開されている。
歴史修正主義に共鳴する首長が教育委員にそのシンパを入れて多数派工作を図ったりしながら、全国でも一部の自治体で採用されるという由々しき事態となっている。多くは、一部の学校にとどまっているが、次の記事にあるように、横浜市では市立中学全部で、歴史も公民も、育鵬社の教科書が採択されたという。

来春から市内の市立中学校で使う歴史と公民の教科書に「新しい歴史教科書をつくる会」系の育鵬社版を採択した。全国最大の採択地区で、149校(在校生徒数約8万人)が対象となる

「横浜市もつくる会系・育鵬社の教科書採択 来春から使用」

それにしても、この運動をしている人は、まともに愛国心があるんだろうかと疑わざるを得ない。たとえば、この教科書で教えられた人が、まじめにこの教科書の考え方を吸収すると、過去の経験を事実に基づいて検証する力は育たない。たんなる勘違いの思い込みばかりを吸収してしまうことになるだろう。きちんと現状分析できず、思い込みで行動する人たちで、まともな世の中になるはずがない。

たとえば、歴史修正主義者の「ABCD包囲陣」についての扱い方を見ればこのことはよくわかる。A,B,C,Dとは、America(アメリカ), Britain(イギリス), China(中国), Dutchland(オランダ)によって日本が経済封鎖されたということを指している。かれらは、日本が太平洋戦争の参戦に踏み切ったのは、「諸外国が日本への石油等の輸出をしてくれなくなって兵糧攻めにあったからだ」、「戦争しなければ日本人の多くが飢え死にしてしまう」、「開戦はどうしても必要だった」と、外国が日本をいじめたからしかたなかったと言い張る。だからこれで学んだ生徒も、そうなんだろう、日本の戦争は仕方なかった、正しい判断だったと思いこむ。

しかし、実際はどうだったか。これについては虹の日記の「ABCD包囲陣というのも」というエントリーを見てみるとよくわかる。たとえば、次のようなくだりがある。

まず変なのが、C、つまり中国が包囲陣の一画を占めている点です。おかしいではありませんか。日本はそのころ中国を相手に戦争していたのです。戦争している相手が日本に物を売ってくれない。それがけしからんと怒る。ダイジョーブか?

つまり、こんな当たり前のおかしさにすら気付かない子どもを育てることになるわけだ。

そのほかにも、上記エントリーは、日本軍自身が記録した資料に基づいて、「日本が兵糧攻めにあっていなかったこと」、「兵糧攻めにあったのは、日本が開戦したからであること」、「ABCD包囲陣というのは、当時の政府が国民を戦争に動員するためにでっち上げたフィクションであること」などを明らかにしている。

実際、娘が使っている参考書でABCD包囲陣についての説明をみると、

日本政府は…被害者としての日本を国民に印象付け、戦争への気持ちをあおりたてた

とある。


歴史教育は、一般的に言われていることが(教科書に書いてあることすらも)本当かどうかを、史料にもとづいて検証する力をつけることではないのか。そのようにきちんと事実を探求し、事実から歴史を組み立てることができる力を育てることではないのか。ちょっと考えれば馬鹿馬鹿しすぎるような粗雑な論理に疑問も抱かず、それに乗せられて感情的になって行動するような石頭な単細胞の子どもを育てて、きちんとした世の中の舵取りをできる人が育つのか? 

史資料を読み取る力、それに基づく論理的な力、そういうものを備えた子どもを育てることこそが、日本や世界の将来にとって有益ではないのか。

愛国心という看板を隠れ蓑に、若い世代の能力をスポイルするような教科書採択に血道をあげるのは、なぜなんだろうか。よほど、事実に基づいて論理的に考える人々が育つと困るんだろうな、と察するしかないだろう。だって、単細胞を育てれば、彼らをだまして甘い汁をむさぼりたい放題だからね。