ハシズム分析(3)―他者を罵倒して自分を上に見せるための方法

他者を罵倒して自分の方が上と見せる(思い込む)ための方法について述べるためには、ネット掲示板等での罵倒合戦を見ればわかりやすい。

ネット掲示板やブログのコメント欄での罵倒合戦には、「おまえもな〜」等の相手を侮辱したり感情を逆撫でするための言葉とか、「○○厨」「半島人は国に帰れ」といった相手にレッテルを貼るための言葉とかも論じるべき重要なテーマかもしれないが、今日のテーマはそこではない。この問題についてはハシズム分析(5)であらためて少し触れることになるだろう。

今回論じるのは、自信の無い人たちが、他者を罵倒するための理屈や言葉のパッケージを、当該掲示板上や、ネットの別の場所にある罵倒のための倉庫から調達してくるということについてだ。

ネット掲示板で炎上している議論をよく見てみると、大まかに分けて二種類の人間がいることが分かる。オピニオンリーダーとそのエピゴーネンだ。

オピニオンリーダーは、自分の論理を様々な(たいてい一面的で偏った)データや論理を用いて、わかりやすくパッケージ化して提示する。エピゴーネンたちは、そのパッケージを使って叩けそうな書き込みを見つけては、あたかも自分の意見のようにそれらを繰り返す。そして、自分が相手を論破して偉くなった気分を味わうわけだ。

では、オピニオンリーダーとはどういう人たちなのか。

原発事故のシーベルト問題を思い出してみよう。原発事故後、1マイクロシーベルト毎時を超える放射線が検出されたとき、肺のレントゲン1回が50マイクロシーベルトだの東京−ニューヨーク間の飛行機往復が190マイクロシーベルトだのと比較して安全だ主張していた学者や解説委員や評論家が多数いたのを覚えている人も多いと思う。たいてい、こういう肩書きや知名度のある人たちがオピニオンリーダーとなる。

彼らは、原発事故後の放射線数値がマイクロシーベルト「毎時」という微分値であることを知りながら、それを意図的に隠蔽してレントゲン1回の積分値と比較することで、安全だと思い込ませようとした。確信犯である。1マイクロシーベルト毎時であれば50マイクロシーベルトなどは50時間≒2日で浴びてしまう量なのに(2日に1回レントゲンを撮る被曝量はきわめて危険である)。なぜ彼らがそのような主張をしたのかといえば、研究費であれCM代であれ、原発から多大な利益を得る立場にあったからだ。つまり、主張の背後には利益が絡んでいるということだ。

利益とはおよそ無関係なエピゴーネンたちは、掲示板でせっせとオピニオンリーダーたちの主張を受け売りしているわけだ。エピゴーネンたちは、ただ原発に反対してる人々を小バカにして自分が上になった気分を味わうために、そういう人たちの利権を守る役回りに利用されているわけだ。

このような構造は、いわゆるネオリベネオコンに典型的に見られる構造だ。もちろん、サヨクでもオピニオンリーダーがいて、エピゴーネンがそこから某かの論理を調達して、批判したり反論したりするいうことはあるだろう。しかし、サヨクの場合、たいていはそのオピニオンリーダーに利益はない。あったとしてもたかが知れている。

それに対して、ネオリベネオコンオピニオンリーダーは今回の原発問題でも、あるいは歴史認識問題でも莫大な利権に預かれる。だから、たとえば、ネオコンの人たちは組織的にQ&A等をつくり、「こう批判されれば、こう反論すればよい」といったわかりやすいパッケージを陳列して、ネット掲示板などでの罵倒合戦に勝利すべく燃料を供給するのだ。もちろん、彼らの主張に対して学問的に批判があるが、彼らがつくるQ&Aには、当然そのような自らに不利な情報が掲載されるはずもない。

しかし、エピゴーネンたちは、別に真理・真実を明らかにしたいのではない。彼らの目的は、相手を罵倒することだ。だから、学問的な正統性はどうでもよい。使用法が明快な単純化されたパッケージさえあればよいのだ。

ハシモトは、このようなオピニオンリーダーという記号として機能しているのだ。ハシモトは池田N夫ほど悪賢く利益を得ているのではないようにも見えるが、少なくとも、ハシモトはエピゴーネンが受け売りしやすい単純な論理を供給しているという点において、オピニオンリーダーなのだ。

次回は、ちょっと寄り道して、ネオリベネオコンオピニオンリーダーがなぜ莫大な利権に預かれるのかについて論じることにする。それによって、なぜ、ネオリベネオコンオピニオンリーダーが日の丸・君が代にこだわるのかが見えてくるだろう。