なぜ生活保護世帯が増え、生活保護バッシングが増えるのか

はじめに

さて、内閣は、生活保護の受給額を減らし、さらに受給要件を厳しくして、できるだけ受給できなくしようとする方向で閣議決定したようだ。

詳しくは

生活保護 入り口で締め出し 法改悪案を閣議決定

生活保護法改正法案、その問題点(大西連 / もやい)

を参照のこと。

本来生活保護をもらう資格がある世帯が実際にどの程度もらえているのか、といういわゆる「捕捉率」が、日本では、ヨーロッパ諸国に比べて極めて低くなっていることが専門家の間で繰り返し指摘されている。現政権は、生活保護を受給する資格のある人たちをさらに閉め出すことに躍起で、捕捉率を上げようなとどいうつもりは毛頭ないようだ。
このような国際的に見て情け容赦のない政策が堂々と遂行できるのは、多くの日本人が、マスコミによる生活保護受給者バッシングにも影響されて、政府と同じような姿勢をとっているからだろう。

ここでは、なぜ生活保護が増えるのか、そしてなぜ生活保護バッシングが増えるのかということについて、もう少し根本的なとこまで掘り下げて明らかにしたい。

最初に断っておくが、以下の記述はあくまで概念モデルであって、正確な数字を反映したものではない。不十分なところは、財政や税金の研究者たちが具体的数字をあげて補完してくれることを期待してやまない。

全体的な変革の概念図

以下、下の図を元に解説しておきたい。

この図は、大きく、左右、二つの図からなる。左が過去で、右が現在である。

それぞれの図で、一番左は企業の収入のうち、どれだけが企業自体の収益となり、賃金に支払われ、税金を納めるのかというのを、概念的に示している。さらにその右に、賃金をもらう人のうちわけを、貧困層、中間層、富裕層にわけ、そのまた右に、それぞれの階層が払う所得税と、法人が払う法人税を合計するような概念図として示してある。

くどいようだが、具体的な割合を正確に反映させているわけではなく、あくまで考え方を示すために作った図である。

なぜ生活保護世帯が増えるのか

第一に、なぜ生活保護世帯が増えたのかという問題である。以前の企業の収入のうち、賃金に支払われる分量を、左の図と右の図で比較してもらいたい。正規社員をどんどん派遣労働やパート・アルバイトなどの非正規雇用に置き換えていくことによって、企業は労働コストを削減してきた。人口が大きく減っているわけではないなかで、賃金が減っているということは世帯あたりの賃金が減っているということになる。だから、当然貧困層が増えることになる。生活保護受給資格のある世帯が増えるということだ。このことは、およそここ20年にわたって、世帯あたりの所得が低下の一途を辿っていることで裏付けられる。2012年7月5日の日本経済新聞の記事でも、「世帯所得、昭和に逆戻り」という記事が掲載されとおりだ。

なぜ生活保護バッシングが増えるのか

第二に、なぜ生活保護バッシングが増えたのかという問題である。生活保護の財源は、当然のことながら、税金である。しかし、一般世帯の賃金が減ったことによって、所得税の税収は減ることになる。さらに、高額所得者の税率が下げられてきたこともあって、高額所得者の全体所得は多くても、税収は減る。さらに、企業は、国際競争力から内部留保が必要だの、法人税が高いから海外に移転するだのと、さまざまな脅しをかけて、法人税を下げさせてきた。もちろん、税率だけの問題ではなく、法人に対する様々な税の控除を含めての話である。

このことで税収全体が落ち込み、生活保護世帯に支払う原資が減るわけだが、生活保護受給資格のある世帯が増えているので、矛盾が生じることになる。それだけではなく、中間層と言われている人たちも、貧困層ギリギリの世帯が増えるので、貧困層を「養っている」ゆとりがなくなる。こっちはギリギリなんだから、他人の世話まで焼いていることはできない、というわけだ。このような状況が、生活保護世帯バッシングを生み出しているのだ。こんな状況で、生活保護を受ける前に親族で助け合えというのは、ほとんどの場合、無謀というほかないのだが。

労働者全体のパイを増やさないと解決しない

しかし、生活保護の申請をしにくくして、すでに北九州などで起こっているような餓死事件が日本中で頻発してもかまわないという棄民を前提にするなら話は別であるが、生活保護の受給世帯を攻撃しても基本的な問題は解決しない。

図を見ればわかるように、労働者の取り分である賃金の部分のパイを増やさなければ、問題は解決しない。労働者のパイを増やしたら、貧困層も減るから生活保護受給資格のある世帯が減るし、所得税も増えるから、問題は一挙に改善に向かう。人々の暮らしにゆとりが出てくると、弱者が救われることに不満を漏らす人も減るし、場合によってはそれこそ自然に親族で助け合うことも出てくるかもしれない。

企業はできるだけ負担を減らすができるだけたくさん恩恵を受けようとする

図を書いたので、ついでに言っておくと、企業は、法人税が高いといって、タックスヘブンといわれる法人税の低い国に本社機能を事実上なのか登記上なのかしらないが、移転したりして税金逃れをする。先日も、イギリスのスターバックスなどでこれが問題にされていたと記憶している。こうやって、企業誘致のために国家間で法人税率を引き下げる競争をしたらどうなるだろうか。企業はできるだけ税金を支払わず、労働者は、ただでさえ少なくなった賃金のうちから税金を搾り取られ、その血税で、企業が利用する道路・港湾などのインフラにお金が回されることになる。企業を誘致して仕事があったとしても、賃金が少なくて、しかも税金を取られて、それが福祉ではなく、企業のインフラ整備に使われるとなると、なんのために働いているのかということになる。

そろそろ、国際的な最低法人税率の策定など、世界的な企業の規制の仕組みをつくらなければならないのではないかと思ったりする。