国民不在の政争―内閣不信任案提出に思う

内閣不信任案を出している側は、いかにも「国難を乗り切るためには菅内閣ではダメだ」というような理由を述べている。

でも、これは本音ではないだろう。なぜなら、この間の菅政権の対応に代わるどのような案を持っているかがちっとも聞こえてこないからだ。たとえば

  • エネルギー問題をどうするのか

菅氏は、もちろん脱原発でも卒原発でもない点は問題だが、ある程度自然エネルギーに転換していくことを表明した。発電・送電・売電の分離に関しても、前進する兆しを見せ始めている。これに対して、小沢氏はどういう立場なのか、谷垣氏はどういう立場なのか、きちんと表明すべきだ。

  • 原発事故の被曝対策をどうするのか

文部科学省が子どもに20mSv/yを許容したことに代表されるように、金が出せないから被曝量の基準をゆるめて避難させないといった、見殺し政策は論外として、では、小沢氏や谷垣氏はこれらにきちんと対応するのだろうか。同じ対応になるなら、政権が代わるメリットはまるでない。

  • 東電に対するスタンスは?

原発事故を原因とするさまざまな被害に対して、東電やその株主・債権者などにきちんと負担させるのか、電気料金値上げや税金による穴埋めによって住民・消費者に負担させるのかという問題もある。被害を正確に把握して東電にきちんと賠償させるのか、被害を過小評価してできる限り東電を免責するのか。少なくとも、自民党は東電マネーまみれなので、東電にきちんと賠償させる方向には動かないことか予想される。

  • 復興に関する考え方は?

被災者たちの声を聞きながら被災者の生活再建を軸に復興を進めるのか、道州制とか漁業への企業参入とか、ますます金持ちに資本が集中する財界の希望する方向で復興をすすめるのか、という立場の表明も必要だ。菅内閣はTPP推進だが、小沢氏、谷垣氏はどうなんだ。きちんと態度表明してもらいたいものだ。


このような、根本的な問題に対する回答無しに、単に菅政権の失態に乗じて、批判だけしておけばよいというのは、政治家として失格ではないのか。かつて、自民党やそのシンパの人たちは、ある政党に対して「何でも反対」「批判しかしない」と批判していた。これは根拠がない「風評」なのだが、今回の自民党公明党は、事実に照らして「批判しかしていない」のではないか。

上記のような問題に触れないで内閣不信任案を提出するのは、国のことなどどうでもよくて、自分たちの利権と権力にしがみつきたいという本音をさらけ出しているだけだ。結局、総理大臣や大臣になりたいんでしょ、それによってさまざまな利権を得たいでしょ、という風にしか見えてこない。

こんな国民の生活そっちのけの人たちばかりが選挙で選ばれてくるのは、選挙制度に欠陥があることと、人気投票になるようなマスメディアの政治の伝え方に問題があるのだろう。

こんなことが続くようなら、日本は本当に終わってしまう、と本気で心配する。