教育の国際化と英語教育

毎日新聞がとても良い記事を書いている。

記者の目:英語の小学校必修化に異議あり=斉藤信宏という記事だ。

記者の記述で気に入ったところを抄録しておく。

4月から小学5、6年生で英語が完全必修化された。国際化時代に対応するための方策と聞いたが、私は強烈な違和感を感じている。「英語を話せること」と「グローバル化に対応すること」は本質的に別のことだと思うからだ。

「これであなたも国際人」といった英会話学校の広告を見かけるが、英語を話せるだけで国際人になれるのなら、米国民はパスポートを持っていなくても、外国人と話をした経験がなくても国際人ということになる。

1年3カ月前、米国でトヨタ自動車の大規模リコール(回収・無償修理)問題が厳しい批判にさらされた。その際、米議会で何人かの議員が、トヨタの意思決定システムを問題にした。世界で年間750万台、米国で日本国内を上回る180万台の車を販売しながら、取締役会メンバーの27人全員が日本人男性だったことに議員らは驚き、「トヨタは本当にグローバル企業なのか」と疑問の声を上げた。

国際化とは、英語を話せるかどうかという単純な尺度ではなく、人間としてどれだけ多様な人を受け入れられるかという物差しで測るべきではないか。

日本にも、たくさんの外国人が暮らしている。身近にいるそんな知人や友人が日本社会をどう見ているのか、彼らの食べ物や日常生活は自分とどう違うのか、そして家ではどんな母国語を話しているのか。そんな「内なる国際社会」を子供たちに見せ、「自分たちとは違う生活習慣の人が世界中にはたくさんいるんだ」と身をもって体験させることのほうが、英語教育より大切な国際化教育だと思う。必修化された授業時間を、そんなふうに使ってほしい。

私は、以前、自前サーバーで運営していたブログに次のような記事を書いたので、それも採録しておきたい。

格差をいっそう広げる大阪府知事(2011/1/18)

学力テストの結果は、そこに通っている児童・生徒の家庭が裕福か貧困かによって決まってくる。それが、教育学の常識だ。

だから、かつて東京などでテスト結果が上位の学校に予算を手厚く配分する提案があったとき、批判されたのだ。裕福だったから成績がよかったのに、そこにいっそう金をバラまいて、貧困だから成績が良くなかったのに、さらに貧困に追い打ちをかける政策だと。

しかし、またこれと同じような政策を掲げている人がいる。読売の記事によれば、大阪の橋下知事が、

府内の公私立高校で英語検定試験「TOEFL(トーフル)」を実施し、成績優秀だったトップ50校に計5億円の予算を配分する方針を府教委に示している

のだという。

こんなの、裕福な生徒が多数通う私立進学高校や、帰国子女が多い高校の成績が良いだろうことは、だれにも想像がつく。

この人、確か弁護士であったと思うが、基本的人権とか平等とかいうことが、お勉強のレベルの知識どまりで、思想としてまったく分かっていないということがよく分かる。

第一、各学校のスタートがそもそも違うのだから、公正な競争になりようがない。

少なくとも、平等とか基本的人権とかを重視している高校は、ぜひこんな政策に飛びつかないでほしいものだ。札束で頬をたたかれて、おいそれと従うようでは、教育機関として不適格だと思うのは私だけではあるまい。

ところで、英語ができたから国際社会で活躍できる人材育成になると考えるのは早計だ。

課題意識や問題意識がなければ、単なる英語テストのできる人で終わってしまう。それは、速読ができたからといって、優秀な哲学者や文学者になれないのと同様だ。第一、英語ができたら優秀なんなら、アメリカ人やイギリス人やオーストラリア人や、、、はみんな優秀な人材になっているはずだ。

まあ、国連やらユネスコやら英語で書かれたWebサイトを読み、大阪府知事のような偏狭な考え方が国際感覚からずれていることに気づく人は出てくるかもしれないけれど。

日本で国際的な感覚を磨くための学校教育(2011/1/19)

昨日の大阪府での、5億円(1校あたり1000万円)というニンジンをぶら下げた国公私立高校での英語教育競争の話題についでに、みなさんにぜひ紹介しておきたいものがあります。

それは、国際的に活躍しうる人を日本で育成するために、高校だけでなく、幼稚園から小・中・高校、教員養成学校でも可能なことです。
だから、大阪の高校でもできることです。

みなさんは、ユネスコスクールって知っていますか。

詳しくは、ユネスコスクール公式ウェブサイトをご覧くださればよいのですが、

要するに、サイトから引用すれば

ユネスコスクールとは、ユネスコ憲章に示されたユネスコの理想を実現するため、平和や国際的な連携を実践する学校

です。

日本では、まだ幼稚園〜教員養成学校まであわせても237校しか加盟していません。

大阪の国公私立高校は、ここに加盟すれば、競争にさらされることなく、「国際社会で活躍できる人材育成」をできるんではないでしょうか。
大阪の高校では、まだ7校しか加盟していません。(まあ、愛知県では国立大学法人名古屋大学附属中・高と私立中部大学第一高校の2校しか加盟していないから、それでも大阪は7校なんでしょうけど。)

そういえば、国立大学法人では3校しか加盟していないけど、本学は未加盟だなぁ。ちょっと検討してみたい気分。