もう一つの人災―貧困社会

地方選挙での民主党惨敗を受けて、野党が菅政権に攻勢を強めているという。

Asahi.comの記事によると、

4兆円規模の第1次補正予算案を巡る与野党協議が11日始まった。自民党は早期成立に協力する姿勢を示す一方、子ども手当など民主党の看板政策の撤回を要求。統一地方選で敗れた民主党に強く譲歩を迫った。

http://www.asahi.com/politics/update/0411/TKY201104110603.html

という。

しかし、ちょっと待ってほしい。自民党の政策によって年間3万人―今回震災の最終的な犠牲者数と同じぐらいだろうか―を超える自殺者を生むような傷ついた社会になったために、そのひとつの手当として「子ども手当」が導入されたのではなかったか。震災は100年に一度かもしれないが、自殺者は毎年なのだ。地震津波は天災だが、原発事故も自殺社会・貧困社会も人災だ。そしてその最も重い責任を負っているのは、ついこの間まで政権をもっていた自公なのだ。

民主党が震災の復興に手間取っているのは、自民党(と与党になったあらゆる政党)が推進してきた原発が事故を起こしたため、それへの対応に相当のエネルギーを集中しなければならないからなのだ。

原発の責任は主として自民党にあるのであって、たまたま民主党政権時に地震が来たために民主党自民党の尻ぬぐいをさせられているといった方が正しいだろう。もちろん、民主党もいまの対応を見れば、原発利権を解体する気がないので罪は重いだろうが。

いずれにしても、自民党が選挙に勝ったのは、原発処理に手こずっている民主党を批判するあまり、これまで自民党が何をしてきたのかを人々が忘れているからなのだ。そしてなぜ人々が自民党の悪政を忘れているかと言えば、メディアが「誰が原発の『安全神話』をつくり推進してきたのか、誰が原発によって利益を得てきたのか」をきちんと報道しないからだし、誰が「子ども手当」を支給しなければならないような「貧困社会」を作りだしてきたかをきちんと報道しないからだ。

個人的には、子ども手当よりも弱者に手厚い福祉にすべきだと思うが、福祉予算を削るべきではないと思う。そうでなければ、今後も自殺大国、虐待大国となり、日本に明るい未来はやってこないだろう。

自ら原発事故の原因をつくっておきながら、原発事故に対応する民主党批判をテコにして、福祉を削ることを要求し、ますます「強者に優しく弱者に厳しい」社会を推進しようとする自民党の強欲さには、ほとほとあきれる。

しかし、なぜメディアはきちんと報道しないのだろうか。それは、電力会社と電力会社を重要な構成員とする日本経団連などが、コマーシャル料でメディアを買収しているからではないか。少なくとも電力会社は独占企業なのでコマーシャルする必要はないはずだが、なぜか莫大な広告費を出している。どう考えてもメディア対策だとしか思えない。

メディアは過去の経緯を報道しない。そうすると、現在の民主党への批判は、もとに戻って自民党支持となる。自民党民主党かという振り子だ。大手スポンサーに買収されたメディアは、どっちに転んでも財界のための政権になるよう、自民・民主以外の選択肢をつぶすことに貢献している。これが二大政党制の本質だ。

リキッドモダン社会は、過去を意図的に忘れさせるメディアを通して形成されている面もあるようだ。そして、それはどちらに転んでも経済・政治上の権力者にとって有利な社会となるようだ。