孫正義氏の100億円+α寄附

昨日、ソフトバンク社長の孫正義さんは、Ustreamニコニコ動画を通した生番組の中で、個人で100億円+引退するまでの役員報酬全額を震災復興のために寄附すると発表した。

何か思惑があるんじゃないか、などと懐疑的な見方があるかもしれない。しかし、この間の孫さんのTwitterでの一連の発言や行動から何か目論見があってというよりも、地震津波原発の被災者の状況に、やむにやまれず行動したというように素直に受け取ってよいように思う。

まず、Twitterでの20-30キロ圏の住人からの、「避難勧告なので逃げると仕事をクビになる」などの悲鳴を受けて、避難指示に変えるべきだと積極的に発言しつづけている。これは政府方針に真正面から反対するものだ。「逃げなかったら実は危険だった」では取り返しが付かないが、「逃げたけど実は安全だった」なら取り返しがつくじゃないか、ということだ。番組の中では、孫さんは「安全だという流言飛語」ということばで批判し、坂本龍一氏もすぐにTwitterで紹介していた。

また、原発設計者の田中三彦氏と後藤政志氏の専門家としての原発批判、東電批判、政府批判を聞きつけ、Twitterでコネクションを探り、上記番組に招待して問題点を自由に語らせたことも信頼性を高めるのに役だったと思う。この番組では、「止める・冷やす・封じ込める」という原発の安全対策の、「止める」以外は、事故後すぐに失敗していたと推測されることが、事実やデータに基づいて説明されていた。また、設計圧力の2倍というのは、通常の2倍ではないということなど、テレビに出てくる御用学者が知っていながら説明しない―スルーした―ことをわかりやすく解説していた。通常は1気圧なのだが、その4倍の4気圧に耐えられるというのが設計圧力。だから設計圧力の2倍というのは8気圧なのでものすごい圧力だということだ。原子炉の蓋に隙間ができて、放射性物質や水素が漏れてもちっともおかしくないということらしい。

さらに孫さんへの信頼を高めたのは、この100億円寄附を大手メディアがまともに採り上げていないことだ。翌朝の時点でウェブでメディアサイトを見る限り、読売がマネー・経済のコーナーでとりあげたのと日経がとりあげたのぐらいだ。大手メディアが採り上げたがらないということは、大手メディアとそのスポンサーに都合が悪いということだろう。これまで東電・政府・御用学者のトリアーデによる大本営発表を垂れ流してきた大手マスメディアは、原発の危険性や事故発表の欺瞞や政府の政策の問題点を批判する孫さんを煙たがっているのではないかと思わせるに十分な対応だ。孫さんが庶民の英雄になるとこれまでの既得権益が侵される。だから、できるだけ孫さんの巨額の寄附を知られないようにしようとしていると疑ってしまう。

昨日の視聴率はたぶんUstreamとニコニコ動画を合わせて8万人〜10万人ってところ。まだまだ大手マスメディアの影響力にはかなわない。これがもう少し進むと世の中は少し違ってくるのではないかと思う。


もちろん、ここで登場していろいろやった結果として、ソフトバンクや孫さんが今まで以上に儲けることになるかもしれない。しかし、それはあくまで結果論だろう。今後これまで以上に儲からないという結果もあり得るのだから。

内田樹氏はTweetした(2011.4.4午前9時過ぎ)。

孫正義さんが100億円寄付という記事を見て、なんだか日本の方向が変わったような気がしました。「自己利益の追求」よりもむしろ「公共の福利」を優先的に配慮する人たちが社会の前面に出てきた。

これから僕たちに求められるのは、「あたかも公共の福利を配慮しているかにみせかけて自己利益をはかる人間」と「公共の福利を配慮してたら自己利益も増大してしまった人間」の違いをみわける力でしょう。これは数値的には考量できません。「文体」や「語調」や「表情」から見るしかない。

その2種類の人間の違いは、自分の正しさを「起点におけるロジック」で説明し切ろうとする人と「未来のおいて達成されたもの」に委ねるものの、時間意識の違いなんでしょう。きっと。よくわかんないけど。

内田さんが言ったから孫正義氏が後者だとは言わないが、もし今後ソフトバンクや孫氏の資産が増えても、これまでの孫さんの文体・語調からさしあたり後者であると判断しておきたい。