震災で放送自粛となった映画をDVDで観る

3月12日に放送予定だった映画『ゴールデンスランバー』(原作:伊坂幸太郎)を楽しみにしていたのだが、舞台が仙台ということだからだろうか、急遽『県庁の星』か何かに差し替えられた。しかしその差し替え映画も、未曾有の地震津波被害が明らかになり、福島第一原発1号機の建屋が爆発するなどによってすっかり報道番組一色に変更され、映画の放送は中止となった。

そこで、娘と一緒にDVDで『ゴールデンスランバー』を観てみた。

ゴールデンスランバー [DVD]

ゴールデンスランバー [DVD]

または

おおざっぱな感想は、原作が緻密な作品であればあるほど、映画にするのは難しいんだな〜ということ。連ドラにして時間をたっぷり取ればよりよくなるんではないかと。(内容の感想については、最後に掲載した文庫版小説の感想を参照されたし。)

まず、登場人物の一人ひとりのキャラクターを限られた時間のなかで描ききるのは容易ではない。映画なら文字でなく映像で表せると言われるかもしれないが、そんなに単純なものではない。その人物の一つ一つの会話、表情、行動から人物像は作り上げられている。だから、その登場人物をクローズアップして描く量が減れば減るほどキャラクターが描けなくなる。特に脇役のキャラクターが描ききれていない気がした。

また、伊坂の小説にはたいてい伏線がばら撒かれており、それが終盤に向けてときにはゆっくりと、ときには雪崩を打ったように次々と回収されていく。小説ではそれぞれの伏線の撒き方はさりげないが、しかし印象的なエピソードとして登場するのだが、映画ではどうしても一瞬の台詞やシーンに切り縮められてしまう。だから回収されたこと自体に気づきにくいし、回収されたときの感動も少ない気がする。

小説を読まずにまずDVDを観て、その後に小説を読んだ方が二度美味しいのではないだろうか。小説はこちら↓

ゴールデンスランバー (新潮文庫)

ゴールデンスランバー (新潮文庫)

この小説、単純にストーリーを楽しめるエンターテイメント小説でもあるが、同時に権力批判、情報統制批判、監視社会批判などをテーマにもしている小説である。放映が延期になったのは、間違いなく舞台が仙台だからなのだろうが、それ以降の政府や学者やワイドショーコメンテーターによる情報コントロールを見ていると、これから起こることを暗示するかのような内容だったことになる。もし震災直前に放映されていたら、原発報道を見る視聴者の見方が変わっていたのではないか、と想像してみたりする。


最後に、別のサイトに掲載したゴールデンスランバーの読後感想を転載しておく。


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いやはや3年も待たされた。普通、ハードカバー本が文庫になるのは2年ぐらい経ってからだが、この本は、じらしてじらしてやっと3年たって文庫化された。それほどハードカバーでも売れたということだろう。

初期、といってもこれからも彼が小説を書き続けることが前提だが、これは伊坂幸太郎の初期代表作になると言っても良いだろう。

まず、あちこちに張り巡らされた伏線が、深く、浅く、最後につながっていくところは、『重力ピエロ』など多数の作品に見られたのと同様だ。本領発揮というところだろう。

さらに、本作では、『陽気なギャング』にあったような、軽妙洒脱な会話もベースになっている。もとサークル仲間の会話を中心に、思わず声に出して笑ってしまうような会話だ。

それに加えて『魔王』で見せた社会批判的なまなざしが、権力批判、マスコミ批判などで十分に展開されている。

これを伊坂幸太郎の初期作品の集大成と言わずしてなんと言おうか。

ただし、この本では,今までの伊坂ワールドと大きく異なるところがある。それは、超能力、神や悪魔などが出てこないということだ。そういう要素を入れなくても、というか入れないからこそ、質の高い作品に仕上がっているのではないかと思った。